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短編4:銀河

 以前、無性に何かを書きたくなった夜、酔いに任せて不特定多数の知り合いに「何か書いて欲しい題目は無いですか。」と尋ねてみたことがある。

 

 色々と返信は送られてきたものの、その殆どについてはまだ書くに至っていない。なぜなら、とても濃いタバコを吸っていた女の先輩から送られてきた「君が美しいと思うものについて書いてみて欲しい。」という題目に、私はその後数ヶ月の間すっかり囚われてしまったからである。

 

 その場の返事には「ありがとうございます!書いてみます。」と元気よく返してみたものの、私の頭には書くべきものの影すら浮かんでいなかった。

 

 「美しいと思うもの」について色々思考を巡らせてみても、考えれば考えるほど何も思い浮かばなくて、そんな自分は心底から虚しい人間だなと感じた。反対に「美しく無いもの」と問われれば、嫌という程スラスラと並べ立てることができるくせに。私の世界が「美しく無いもの」によって切り分けられているのだとすれば、それはとても悲しいことだなと感じて、気付いた時には電気もつけたまま眠ってしまっていた。

 

 それから今日までの数ヶ月間、私は頭の片隅に「美しいと思うもの」について考えるためのスペースを確保しつつ日常を過ごしていた。その間、幸せだなと感じる瞬間はいくつもあったし、感動するような出来事もたくさんあったけれど、直感的に問答無用の説得力を持った「美しさ」を持った瞬間が訪れることはついに無いまま、気づけば頭の中のスペースは他の様々によって埋め立てられていた。

 

 今晩が7月7日であることに、夜中になってから気付いた。なんとなく部屋を見渡すと、少し前に友人からもらった小さなプラネタリウムの箱があった。箱を開け、電源をつけて部屋の電気を消すと、天井には一つ一つの星座に名前が書かれた可愛らしい星空が広がった。

 

 何の気なしに、プラネタリウムの穴に目を当ててみた。眩しい光が漏れている、小さな穴。

 そこに確かに、銀河はあった。