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短編1:不毛な闘争

2xxx年、。黒人差別反対のデモに端を発した差別撤廃の潮流が世界中を飲み込んだ。黒人差別だけでなく女性差別LGBT差別、部落差別をはじめとする全ての差別を無くそうとマイノリティたちは躍起になり、実際それらは瞬く間に消滅した。

しかし、他の誰かを共通の敵にしたがるという人間の性は思っていたより強力なものであった。「差別のない世界」にも小さな、しかし確実な差別が新しく発見されるのだ。身長差別、一人っ子差別、海なし地域差別...。様々な差別たちが毎日次々と生まれては消され、生まれては消され...人間はこの不毛なサイクルから抜け出すことはできなかった。

そしてある日ある所で、また新たな、しかし特別な差別が生まれた。「頭髪差別」であった。この差別は、今までの差別とは違った。この際になってやっとわかったことだが、人間のもっとも根底で力強く根を張っている差別意識は、以外にも「頭髪差別」だったのだ。新たな、しかし不思議なほどに強力なこの差別意識は、地球を完全に二分した。

頭に毛の多く生えているものが、生えていないものを嘲る。こんな不毛な対立には、言い知れぬ魔力があった。かつて女性差別撤廃に際して必死に女性の権利を主張した人々も、黒人の自由のために戦った人々も、皆等しく「ハゲ」を差別する快感の前には無力であった。結局当然のごとく頭髪差別はエスカレートし、最終的には虐殺とも取れるような「闘争」が、数十年周期で繰り広げられるようになった。

 

一度世界中から「ハゲ」を一人残らず駆逐し、もっとも最悪の形で頭髪差別が終焉を迎えても、その次の世代には必ず新たな「闘争」という名の「ハゲ狩り」が始まるのだ。

 

そして今回、推定634回目の「闘争」が終わり、毛髪のある人々は推定634回目の勝利に歓喜した。今回の闘争で若人たちをまとめ上げ、官軍の実質的指導者となった毛髪の豊かな青年は高らかに宣言する。「長らく続いてきたこの不毛な闘争も、今回できっと終わりを告げる!なぜなら、今度こそ、地球上から「ハゲ」は完全に姿を消したのだから!」